なぜコストコの競合はイオンではなくディズニーなのか?
twitterにも書きましたが、最近「食べログワンコインランチ」や「ランパス」、いわゆるランチパスポート系のビジネスが気になっています。
ランチパスポートの流行に乗っかって食べログが始めた「食べログワンコインランチ」がビジネス的に今すっごい気になってるんだけど、これまだアプリ化してないんだね。これこそまさにアプリファーストで進めるべきサービスだと思うんだけど。http://t.co/0dB2bg4wB6
— Ryosuke Kawauchi (@kawauchi_co) 2015, 4月 7
ランチパスポートのビジネスモデルはコストコの構造とよく似てる。人はタダで割引券をもらっても何とも思わないのに、わざわざ自分でお金出して買った「割引の権利」は何故かありがたがるんだよね。それでいて使い切れなかったりして。この辺の非合理な人間心理を巧みに計算した優れたビジネスモデル。
— Ryosuke Kawauchi (@kawauchi_co) 2015, 4月 7
とどのつまり、定期課金型の退蔵益ビジネスはネット・リアル共に最強のビジネスモデルなんだよね。
— Ryosuke Kawauchi (@kawauchi_co) 2015, 4月 7
…って事は、最強の営業部隊を持つリクルートはほぼ間違いなくこのランチパスポート的ビジネスに参入してくると思う。それはまるで10km先の血の匂いを嗅ぎわけ猛然と獲物に迫ってくる獰猛な鮫の如くwグルーポン戦争再び…
— Ryosuke Kawauchi (@kawauchi_co) 2015, 4月 7
で、僕は常々、コストコのビジネスモデルって興味深いなーと思ってました。
だって、わざわざ年会費4,000円も払って、あんな郊外の倉庫まで車で買いに行くんですよ?人によっては高速を使って行く人もいるでしょう。そしてやっとの思いで到着したのに駐車場は激混み。もし張本さんが来たらこの時点で「喝だっ!!!」と唾を飛ばしながら激怒されること必至。ま、日曜は来ないと思いますが。
でも、コストコに行ってコストコの批判をする人の話を少なくとも僕は聞いた事がありません。コストコの感想で一番よく聞くのは「楽しかった〜!」です。
ここで面白いのは「お得だった〜」よりも「楽しかった〜」という意見の方が多いという事です。(サンプル数は僕の半径5mで10個くらいですがw)
たしかにあの広大な倉庫のような店内で巨大なカートを押しているとさながらアメリカで買い物してる気分になるし、でっかいピザや大量に入ったロールパンを買っただけでも「コストコで買い物したな〜」と満足感に浸れます。コストコのフードコートででっかいホットドッグを食べるのももはやテッパンのお決まりです。そういえばこれはイケアの話ですが、敬愛する@hironobutnkさんもこんな事をおっしゃっていました。
IKEAが出口でホットドッグ100円、ソフトクリーム50円で売る理由 1.IKEAでは客を非常に歩かせる導線になっているので、みな腹が減るか、甘いものが欲しくなる。帰り際に幸福感を植え付ける 2.あり得ない安さで売ることで、家具もすべてあり得ない安さだという印象を植え付ける
— 田中泰延 (@hironobutnk) 2014, 5月 20
そして、コストコに行った後はみなさんどうしてるのでしょうか?
仲の良い家族同士で行った人たちは帰ってから大量に買ったロールパンをそれぞれ分け、大学のサークル仲間で行った人たちは大盛りのプルコギ肉でBBQをし、海鮮チラシとピザでホームパーティーを楽しむ人たちもいるでしょう。
そしてそれらのシーンをiPhoneで撮影してSNSにアップしイイね!が付く事で更に満足感に満たされていくのです。
さて、ここで1つ質問です。
「もし近所のスーパーで年会費不要でコストコの商品が売っていたら、あなたは買いますか?」
たしかに、ディナーロールはあんなに大量に入って498円は安いし、それなりに美味い。でも、それを近所のスーパーで本当に買うでしょうか?
論理的に考えれば、4,000円の年会費も払わず、移動コスト(移動時間やガソリン代、場合によっては高速代まで)もほぼゼロ。圧倒的に近所のスーパーで買った方がお得なのです。
それなのに、おそらく多くの人は近所のスーパーで買う事はないでしょうし、買ったとしても「楽しかった」などという感情は絶対に生まれないのです。
では、コストコが売っている「本当の価値」とは何なのでしょうか?
それは、「体験とコミュニケーション」です。
【コストコへ行く数日前】
「コストコの会員になったんだ〜!今度みんなで一緒に行かない?」
「じゃあ10時に車で迎えに行くね!小旅行みたいな気分だね」
【コストコへ向かう当日の車内】
「コストコの雑誌買って読んだら人気商品はこれとこれなんだって!楽しみだね〜」
「あ、ケイちゃん寝ちゃった?寝顔がかわいいね。大きくなったよね〜…」
「わ〜、やっぱり駐車場もめちゃくちゃ混んでるね〜。すごいね〜」
【コストコ店内】
「中、広っ!!さすがアメリカ、って感じだね!」
「わ、これが雑誌に載ってた海鮮チラシじゃない?美味しそう〜」
「このロールパンは近所の山本さんが美味しいって言ってたから買ってみようかな」
「じゃあこれは帰ったらみんなで分けようね!」
「ホットドッグ大きくて美味しい〜」
「こんなにいっぱい買っちゃって車の中入るかな〜(笑)」
【帰宅後】
「わー超豪華!テーブルの上に乗りきらないよ〜」
「ちょっと待って、今写メ撮る」「あ、私も!facebookにあげよ〜」
「これ美味しい〜♪ちょっと食べてみて!」
…どうでしょうか。
こんなに楽しい体験とコミュニケーションの権利がたった4,000円で買えるなら安いと思えてきませんか?
4,000円の年会費も、不便な郊外への移動も、必要以上に大量の食料品も、全ては体験とコミュニケーションの為に必要な事なのです。
そう考えると、コストコの競合は実はイオンやスーパーではなく、ディズニーやUSJだと言えるかもしれません。イオンやスーパーが売っているのは「モノ」ですが、ディズニーやUSJが売っている本質的価値はコストコと同じ「体験とコミュニケーション」だからです。
さて、ここでやっと冒頭のランチパスポートや食べログの話に戻ります。
ランチパスポートが売っている本質的価値は「お得に500円のランチが食べられる」ではなく、「仲間と一緒にお得なお店を新規開拓するワクワク体験と、それを通してのコミュニケーション」だと僕は思います。
みんなでランチパスポートを買い、どこに行こうかワイワイ相談し、お店の中で色々話し、お腹も満たされて帰る。しかも、ちょっと得してる。
ランチパスポートは一人で使うよりも2人以上で使う方がコミュニケーションが生まれるので断然価値が高まるのです。すると、一冊1,000円のランチパスポートが一気に2冊、3冊と買われる訳です。
食べログワンコインランチは、論理的に考えればとても良く出来たビジネスモデルです。圧倒的な飲食店のデータベースを持つ食べログという信頼感、月500円というシンプルな価格設定、スマホがあれば本という「物理的な」モノが不要。仲間のうちの一人が「あ、今日ランチパスポート家に置いてきちゃった」なんて事も起きない訳です。
だけど、ランチパスポートにおける「本」はかさばるし一見ジャマのようで、実はこのビジネスの鍵なのではないかと思っています。わざわざ本屋に買いに行くという面倒くさい行為も、場合によっては完売で買えなかったという最悪な体験すら、不便なコストコと同じく必要な経験なのかもしれません。
はてさて、ランチパスポートや食べログワンコインランチの今後はどうなるのか?
僕の個人的興味は尽きません。
ただ一つ言えることは、ランチパスポート然りコストコ然り、「体験とコミュニケーションを売る」というのはとても現代にフィットしたビジネスだと思います。
てか、疲れた……